BAUHAUS COSMOLOGY

by KENTA

 

 突然バウハウスの宇宙に投げ出されて浮遊するゴミのような存在になってしまわないように、まずは足固めをすることにしましょう。

 バウハウスはもちろん、美術史やデザイン史に登場する歴史的な存在です。以前、「バウハウスって誰ですか」というような質問を受けたことがありますが、もちろんバウハウスは人物ではなく、ドイツに1919年から1933年まで存在した「造形芸術学校」であり、芸術やデザインの領域において登場した一つの「運動」なのです。

 

 

 なぜ私はバウハウスを研究の対象としているのでしょう。

 私は学生時代に「教育」と「美術」の双方を焦点にして学業としていました。そして、美術の領域の中でも「構成」(造形芸術の基礎的な領域であり、主に色彩や形態に関わる原理、それによる表現の可能性を追求する。「ベーシック・デザイン」と呼ばれることもある。)を中心に取り組んでいました。卒業制作のタイトルは「有機的コンポジション」、定規やコンパスなどはいっさい使わずに、切り裂いた布(自分が着ていた古いTシャツ)、垂らした絵の具(ドリッピング)、蝋燭のすす(パネルをひっくり返して蝋燭の火に近づけてすすを定着させた。)、フリーハンドの斑点などによって抽象絵画のような表現をしています。

 実は私には学生時代に大学を休学して渡独した経験があります。なぜドイツに行こうと思ったのか、これは私自身にもよく分かりません。当時、NHKのドイツ語講座をやっていたのですが、ある晩、突然「ドイツに行こう!」という決心の言葉が私の頭に渦巻いたのです。かなり直感的でした。しかし、それが当然であり、絶対に間違いはないという確信もありました。その後、ドイツについて下調べをしていくうちに芸術教育運動やバウハウス運動の存在に気づくことになったのです。しかし、そのときは強い衝動を感じたわけではなく、それ以上調べようという気にはなりませんでした。

 その衝動はドイツにおいて得ることができました。私はドイツの南西に位置するフライブルクという街に滞在しており、バウハウスそのものに遭遇することはありませんでしたが、なにげなく立ち寄った本屋でバウハウス研究者ライナー・K.ヴィック著の『バウハウス教育(学)』を手にしました。パラパラとめくってみるとバウハウスの教師であった芸術家たちの教育理念や実践が考察されており、それが刺激となって私の中でも「教育」と「美術」とが二焦点となって推進力を生み出し始めたではありませんか!さらに、当時の私には有名な画家としてしか記憶になかったクレーやカンディンスキーもバウハウスの教師であったことが分かり、バウハウスの「大きさ」を感じました。

 帰国してから日本の文献などを調べてみると、「構成」自体、バウハウスから日本に影響したものであり、「ゲシュタルトゥング」というドイツ語の訳語(現在では「造形」と翻訳されることが多い。)であることも判明しました。もうそのときにはバウハウスに夢中になっていました。何らかの形でバウハウスに関わりたいと思うようになりました。そして、それは大学院への進学によって、つまり研究対象とするかたちで可能となったのです。院生のときにDAAD(ドイツ学術交流会)の奨学金を得て、再び渡独。今度は歴史の証人であるヴァイマールやデッサウのバウハウス校舎を訪問したり、ベルリンのバウハウス資料館で調べものをしたりすることができました。(DAADには感謝、感謝。)

 そして、壮大なバウハウスの痕跡を認識するのと同時に、一般的なバウハウスの認識がかなり片寄っていることにも気づきました。「建築」や「デザイン」の領域の人々がみるバウハウス像は、「機能主義」の殿堂となっていることが多いのです。また、「構成教育」(デザイン教育)においても体系的な教育方法に特色があるようです。現代の視座からのバウハウスの見直しが必要だと思いました。私の研究の中心はそのようなバウハウスの脱構築(基本としていた「バウハウス」が、実は違った様相も包含していたのだという認識を迫ることによる。)にあります。

 そして今、大学の教官となった私は依然として「バウハウスの宇宙」を旅しています。バウハウスは「アートとテクノロジーの統合」を目指しましたが、それは今日においても有効のはず。「マルチメディア時代のバウハウス」が考察されるべきでしょう。このテーマで、私は文部省の科学研究費補助金の助成を受けることができました。美術におけるメディアリテラシー教育、教員養成課程の学生のための教材開発研究と同時進行しながらバウハウスにしがみついています。

 バウハウス教師の中で私が一番尊敬しているヨハネス・イッテンが他界した翌年、私はこの世に生まれました。バウハウスの、そしてイッテンの取り組みの中核となるものを吟味しながら、現在、そして未来に手渡ししていけるように努力するつもりです。(まだまだ未熟者ですが・・・。)